「不幸中の幸い」が重なった大阪北部地震


大阪北部地震の発生から1か月が経った。茨木市や高槻市・枚方市などは震度6弱の揺れに襲われた。

被害のほとんどは建物の一部や工作物に集中した。屋根などに被害が出たが全壊や半壊は少ない。4名が地震で死亡したが、倒れた塀や家具の下敷きになったためだ。

貴重な人命が失われたものの、震度6弱の地震にもかかわらず被害は抑えられたという指摘もある。広範囲にわたるインフラの被害もガスのみだった。また対応や復旧も比較的スムーズに行われたという評価も多い。

しかし、これは必ずしも大阪北部が地震への備えができていたということではない。「不幸中の幸い」がいくつも重なった結果とみられる。

短周期で継続時間も短かった大阪北部地震

専門家は大阪北部地震は短周期の揺れだったと指摘している。0.5秒以下の小刻みな揺れであったために建物の周期と一致せず、建物の倒壊は避けられたとみられる。

JR茨木駅付近でも建物の被害は瓦の崩落や、外壁の破損にとどまり、老朽化した家屋やビルの倒壊はなかったとみられる。

ただコンクリートブロック塀とは周期が一致したという。そのため、コンクリートブロック塀の倒壊で2名が死亡することになった。

また揺れの継続時間が短かったという指摘もある。震央が高槻市の城内町の地下10㎞ほどの浅いところであったため、揺れの大きかった地域ではP波とS波がほぼ同時に到達したとみられる。

そのため揺れの継続時間が短かったという。阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験者も、大阪北部地震の揺れは短かったと証言している。

比較的狭かった被害地域

大阪北部地震は被害地域が比較的狭かった。そのため早いタイミングで周辺自治体等からの応援が期待できた。また警察や市役所などの職員も市外在住者には被害が少なく復旧の人員を確保しやすくなった。

ガスの復旧なども集中的に人員が投入されたため、当初想定の半分程度の時間で完全復旧した。工事業者など民間事業者も周辺地域から被害地域に入れるため、今後の復旧も比較的早いとみられる。

断水・停電があれば避難者や産業への影響は拡大

大阪北部地震では、インフラの影響は主にガスに限られた。高槻市や吹田市では広域で一時的に断水や濁り水が発生したが、茨木市では限られた地域だけだった。

停電も一時は府内で停電したが11時までには復旧。茨木市でも中村町で電柱に被害があったため停電が長期化したほかは、停電の影響も限定的だった。

仮に断水が広範囲で長期にわたれば、避難者は桁違いに拡大していただろう。断水すれば水洗トイレは使えなくなる。マンションやビルでは、高架水槽を使用しているため、停電でも断水が発生する。

停電でも、テレビなどで情報を得ることはできなくなる。スマートフォンも充電ができなくなれば、連絡も取れなくなる。エレベーターの閉じ込めも増え、復旧にも時間がかかっただろう。

企業や市役所等でもパソコン、コピー機などが使えなくなると、業務に支障が出たり、災害対応に遅れが出る。店舗も営業できなくなる。

ガスが使えないだけでも不便だという声は多かったが、調理は大阪ガスが無料配布したカセットガスコンロでも代替できた。また6月であったため水でシャワーを浴びることもできた。

断水・停電がほとんどなかったことが、復旧にも幸いしたといえるだろう。

被害を抑えた発生時刻

午前8時前という地震の発生時刻も幸いした。停電はなかったもののすでに明るい時間帯で、割れたガラスを踏むなどの家屋内での被害が抑えられた。

また朝食の時間を過ぎていたため、火を使っている件数も少なかった。食品工場などの調理場も稼働していなかったところも多く、火災や火傷が避けられたとみられる。

市外在住の市役所職員も公共交通機関で茨木に向かっている時間帯だったことも幸いした。数時間は電車に閉じ込められたものの、午後には最低限の職員が市役所に出勤することができた。

電車の運行停止が長期化したことで本格対応が午後からになったものの、市内在住職員などが9時すぎに災害対策本部を設置した。地震の発生が夜間や早朝であれば、当日中には必要な人員を確保できなかった可能性がある。

特に茨木市消防本部の職員は24時間勤務で8時45分が交代時間であるため、これから勤務明けの職員と勤務に入る職員が重なって対応できる人員が厚めに確保できた。

大規模な災害に備えて市の職員を市内に集中して在住させるのは、職員自身が被災するリスクを高めることにもなる。初期対応に課題は残したものやむを得ないだろう。

今回の地震を教訓に求められる防災力

今回の地震は「不幸中の幸い」が重なった。今後も南海トラフや上町断層、有馬-高槻断層帯の地震も想定される。今回の知見を将来に生かす必要があるだろう。

当会が以前から指摘してきた老朽化した旧耐震基準のビルの倒壊などは避けられた。しかしさらに大きな地震があれば、倒壊しない保証はない。地震に強い街づくりを進めるためにも再開発は急務だ。

大阪北部地震から1か月、地域経済への影響ジワリ


大阪北部地震から明日で1か月。茨木市内ではブルーシートが目立つほかは、ほぼ平常を取り戻したように見える。しかし水面下では地震からの復興はまだ始まったばかりだ。

茨木市内の地域経済にも影響が広がりつつある。経済面での影響は、阪急茨木市駅・JR茨木駅西口の再開発など茨木市の街づくりや中心市街地の活性化にも及ぶことにもなりそうだ。

建物の被害は1万棟近く?

茨木市内では建物の被害が1万棟に迫るとみられる。多くは半壊未満で全壊や大規模半壊はわずかだという。

家屋の被害は、茨木市によると阪急茨木市駅北東の末広町、中津町、寺田町で多いという。

南隣の双葉町などでは液状化にはいたらないものの道路の被害もあり、このエリアで揺れが大きかった可能性がある。

このほかにも旧茨木川流域周辺地区、阪急茨木市駅南側の東西通り周辺やJR茨木駅西側の穂積地区でも家屋の被害が目立つ。

その多くは屋根瓦の崩落と外壁の亀裂だ。屋根の被害については、直後から雨天が続いたものの、発災から1週間ほどでブルーシートが張られた。

しかし社会福祉協議会の運営するボランティアセンターは、まだブルーシート張りが完了していないとしており、崩れた屋根瓦が放置されたままの家屋も残っている。

ほとんどの家屋で本格的な改修工事は手つかずで、北摂地区の屋根屋(屋根工事業者)は数か月待ちという。

いっぽう商業テナントビルの対応は比較的早い。JR茨木駅東側のカラオケ店「ジャンカラ」では、地震発生から1週間ほどで足場を立てて工事が始まった。

外壁には大きな被害はなかったが、もともと寿司店「すし半」であったため、庇に瓦が使われており、一部が崩落したためだ。

外壁タイルが広範囲で剥落した舟木ビルでは、数日で足場が設置されて工事に入った。

しかし、マンションの改修は遅れている。大阪万博前後に建設された穂積地区やJR茨木駅周辺のマンションでは大きな被害が出ている。区分所有者間の合意形成が進まないためだ。

大規模な建物改修は小規模な工事業者では施工が難しく、人手不足が続いていることから、工事が長期化する可能性もある。

建築関係に特需

建築関係は特需で活況を呈している。しかし地域経済へ寄与するかは未知数だ。復旧に市内事業者だけでは足らず、市外の事業者も多い。

建築関係の好況が、市内の消費にプラスになる可能性は小さそうだ。

鉄道は翌日から復旧も、増える渋滞

交通の影響は、当日をピークに解消しつつある。地震発生直後は鉄道網がストップしたが、翌日にはほぼ正常化した。

しかし茨木市内では工事や復旧作業のトラックなどの乗り入れが増えた影響で、渋滞が増えている。市内のバス路線ではダイヤが乱れることも多く、時刻表通りの運行ができないと告知している。

小売業への影響はほぼ解消

店舗では従業員が出勤できないため地震当日は休業が目立ったが、数日ほどで多くの店舗が営業を再開した。ガスの供給が停止したことで一部飲食店の休業は長期化した。

食品スーパーでは、地震発生当日はカップ麺や弁当・パンなどが売り切れたが、翌日からは正常化した。一部では弁当や総菜の調理に影響が出たようだ。

また茨木市役所の南隣の「業務スーパー」では改修のため、7月まで再開できなかった。イオンモール茨木でも一部施設で休業が続いている。

しかし、商工業全般の影響はまだ全容がみえない。茨木市の商工労政課は、一部で被災状況のアンケートを配布している。在宅の個人事業主などはカバーしておらず、正確な経済損失額は把握できない。

農業にも被害が発生している。北部山間地域では地震と豪雨の影響で土砂災害が発生しており、田畑に影響が及んでいるようだ。

地震対応で12億の補正予算

茨木市の福岡洋一市長は大阪地震の応急対応で約12億円の補正予算をまとめた。地震の緊急対応のため、市議会の承認を省いて専決処分で計上する。

被災者への給付や公共投資が増えそうだ。茨木市は、既存の被災者支援メニューに加えて、独自の支援策を検討している。

さらに市役所の庁舎でもエキスパンションが破損したり、庁内の壁面に亀裂が発生したほか、小中学校のブロック塀の安全化などの出費がかさむ。

今年度当初予算で茨木市の歳出は860億を超える。さらに地震対応で追加支出は避けられず、木本市政の積極歳出で厳しさを増している茨木市の財政に黄色信号が点灯しそうだ。

阪急茨木市駅西口やJR茨木駅西口の再開発の予算も捻出できなくなる可能性もありそうだ。

早くも脱・被災地

財政が厳しい中で、市が一縷の望みをかけていたのが、義援金やふるさと納税、国や府からの支援だ。しかし地震発生から3週間ほどで、北摂は早くも「被災地」ではなくなってしまった。

7月に西日本豪雨が発生したことで、大阪北部地震は過去の災害になった。茨木市消防本部も12日に西日本豪雨の被災地へ消防隊を派遣している。

罹災証明書の発行などの業務でも、大阪府南部を中心に他自治体からの応援を受けているが、今後は西日本に振り向けられることになりそうだ。

世間の関心はすでに大阪北部地震から西日本豪雨に移っており、本格復興にむけたヒト・モノ・カネのリソースが不足する事態も想定される。

イベントも縮小や選別が進む?

辯天宗冥應寺は、茨木辯天花火大会を早々に中止することを決めた。境内の被害が大きいことが表向きの理由だが、市の支援が期待できないこともありそうだ。

今月末の茨木フェスティバルは開催される見通しだが、市内企業の寄付金に頼っており資金難も予想される。

11月末のいばらきバルフェスタも開催が危ぶまれたが、日程を発表して参加店舗の募集をはじめた。

昨年からすでに補助金を減らされており、少ない資金でも辛うじて運営できる体制を構築できたようだ。しかし被災した飲食店も多く、参加費用が重荷になる可能性もあり、参加店舗が減る可能性もある。

一方で年末の「いばらき光の回廊 〜冬のフェスティバル〜」は開催が難しそうだ。もともと寄付金が集らず資金難のうえ、イルミネーションの設置などに多額の経費がかかる。市役所も支援を打ち切るとみられている。今回の地震で灯は消えることになりそうだ。

比較的採算性がよいとみられる、麦音や茨木音楽祭などは継続できそうだ。