茨監告示第1号
地方自治法第98条第2項の規定に基づき、平成28年3月22日付け茨議議第1060号で議会から請求のあった監査の結果について、別紙のとおり公表する。
平成28年5月26日
茨木市監査委員 美田憲明
同 伊藤真紀
同 福丸孝之
同 長谷川浩
第1 請求の要旨
平成28年2月末日現在における現年度分及び延滞金を除く総額500百円以上の市税滞納者について、茨木市債権管理対策推進本部の事務を含め、滞納整理事務はいかなる対応を行い、その対応は適切であったか否かについて、監査を求める。
第2 監査の期間
平成28年3月22日から5月24日まで
第3 監査の実施
1監査対象事項
平成28年2月末日現在における現年度分及び延滞金を除く総額500万円以上の市税滞納者に対する滞納整理事務について法令等に照らし、違法性、不当性があるか否かを監査対象事項とした。
2監査対象部課
総務部収納課
3監査の方法
(1)監査の着眼点
滞納整理事務が適切に行われているかどうかを検討するに当たって、以下の3つの視点に着目して監査を実施した。
ア滞納整理事務が法令等(地方税法、茨木市債権の管理に関する条例等)に基づいて適正に行われているか。
イ滞納整理事務が公平に行われているか。
ウ滞納整理事務が効率的、効果的に行われているか。
(2)予備監査
事務局職員により実施した。監査請求の内容に関して、関係書類の提出を求め、調査し、必要に応じて、関係職員から事情聴取した。
(3)監査委員による監査
事務局職員の予備監査、また、関係職員の陳述における質疑等により、監査を実施した。なお、監査結果の決定は、監査委員の合議とした。
4守秘義務への配慮
(1)地方税に関する事務に従事する職員の守秘義務
地方税に関する事務に従事する職員は、地方税法及び地方公務員法により、守秘義務が課せられている。
地方税法第22条では、「地方税の徴収に関する事務に従事している者又は従事していた者は、これらの事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は窃用した場合においては、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と規定されている。
また、地方公務員法第34条第1項では、「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。」と規定されている。
さらに、地方税に関する事務に従事する職員の秘密義務について(昭和49年11月19日付け自治府第159号各都道府県知事あて自治省税務局長通知)において、「(略)滞納者名及び滞納税額の一覧であっても、納税者等の利益を保護し、行政の円滑な運営を確保するため、一般に公表すべきでないことは勿論であるが、議会の審議の場においてその開示を求められた場合においても、原則として開示すべきではないものであり、議会から地方自治法第100条等の規定に基づきその開示を求められた場合においては、議会の審議における必要性と納税者等の利益の保護、行政の円滑な運営確保の必要性等とを総合的に勘案した結果その要請に応ずべきものと判断したときを除き、開示すべきではないものであること。なお、開示する場合であっても、議会に対し秘密会で審議することを要請する等適切な配慮をすること。」とされている。
よって、地方税法及び地方公務員法による守秘義務に配慮し、監査を実施した。
(2)監査委員の守秘義務
地方自治法第198条の3第2項では、「監査委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。」と規定され、守秘義務が課せられていることから、監査の実施に伴う細部について記載することは差し控えた。
5関係職員の陳述聴取
平成28年4月22日、関係職員(総務部長、同部収納課長及び同課参事)から陳述の聴取を行った。
なお、地方税に関する事務に従事する職員の守秘義務に配慮し、陳述は、非公開とし、傍聴を認めなかった。
第4 監査の結果
1 事実関係の確認
請求について監査した結果、次の事実が確認できた。
(1)滞納整理事務
滞納整理事務は、納税者等が納期限内に市税を納付しない場合に、①督促、②電話や文書による催告、③財産調査、④差押え、換価、交付要式等の滞納処分、⑤徴収猶予、換価の猶予等の納税の緩和措置などを行う。滞納整理事務を実施した結果、滞納者が無財産である等一定の要件を具備する場合には、⑥滞納処分の執行停止や⑦不納欠損処理が行われることとなる。
なお、地方税法は、個別の税目ごとに、若干の独自の規定を置くものの、その滞納処分は「国税徴収法に規定する滞納処分の例による。」との規定を置いている(地方税法弟331条第6項等。)。
ア 督促
納税者等が、納付又は納入すべき税を納期限までに完納しない場合、納期限後20日以内に、督促状を発しなければならない(地方税法第329条第1項等)。
督促の効力は、滞納処分の執行要件としての効力(地方税法第331条第1項等)や徴収権の消滅特効を中断する効力(地方税法第18条の2第1項第2号)である。
イ 催告
催告については、地方税法上の根拠規定はなく、民法第153条の催告に該当するものであり、6月以内に差押え等を行わなければ、時効中断の効力は発生しない。
ウ 財産調査
督促状を発し、催告を実施してもなお納付されない場合に、滞納者の納付能力の判定や滞納処分の執行のために財産調査が実施される。財産調査は、不動産、預金、生命保険、給与等に対して実施される。財産調査の結果、財産の存在が判明した場合には、必要に応じて差押え等の滞納処分に係る手続を行う。一方で、滞納処分をすることができる財産がないとき、滞納処分をすることによってその滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき、また、滞納者の所在及び財産が不明であるときは、滞納処分の執行を停止することができる(地方税法第15条の7第1項)。
エ 滞納処分
滞納者が督促を受け、一定期間までに完納しないときは、滞納者の財産を差し押えなければならない(地方税法第331条第1項等。)。差押えは、滞納者の財産処分を制限し、換価、配当の一連の手続を行うこととなる。また、参加差押や交付要求も同様である。なお、滞納者の財産を差し押さえるべき時期については、徴収職員の合理的な裁量にゆだねられている(国税不服審判所公表裁決事例平成22年9月29日裁決)と解されている。
オ 納税の緩和制度
納税者等が納期限までに納付しないときは、一定の手続に従い滞納処分を実施することが原則である。しかし、一定の要件に該当する場合は、納税の緩和措置として、徴収猶予(地方税法第15条第1項)、換価の猶予(地方税法第15条の5第1項)及び滞納処分の執行停止(地方税法第15条の7第1項)をすることができる。
カ 分割納付申請書による分割納付
滞納者は、滞納した市税を一括全額納付することが原則であるが、地方税法の規定による徴収猶予や換価の猶予を行った場合、分割納付がでさることから、これらの規定に準じて、「事実上の猶予」として、本市では、分割納付申請書による分割納付を認めている。
(2)総務部収納課
収納課の分掌する事務として、「市税等の滞納整理及び処分並びに不納欠損処分に関すること。」が茨木市事務分掌条例施行規則に定められており、同課収税係が滞納整理事務を行っている。
ア 体制
平成28年4月1日現在の総務部収納課収税係の人員配置は、正規職員が10人であり、そのうちの7人が滞納整理事務に従事している。また、臨時的任用職員6人が配置され、現年度分の督促状発送に合わせた電話による早期自主納付の呼びかけが行われている。
さらに、市税徴収専務に係る懸案事頂や公売事務に係る業務等にづいて、指導及び助言を受けるため、非常勤嘱託員の市税徴収専務指導員1人が配置されている。
イ 滞納整理実務マニュアル
収納課において、滞納整理事務を円滑に行うため、「滞納整理実務マニュアル担当者用(基礎編)」及び「滞納整理実務マニュアル担当者用(応用編)」が作成され、同課収税係の職員に配付きれている。
ウ 市税徴収方針
収納課において、毎年度、市税徴収方針が市長決裁により決定されている。
平成27年度市税徴収方針には、重点対策として大口滞納者が掲げられており、「滞納を放置すると納税意欲が低下するので、滞納処分の前提条件となる督促状の発送後は滞納者と早期に交渉を行うことが重要で、電話催告は勿論、実地調査等により滞納実態を分析し、的確な整理方針のもと滞納額が膨らまないよう納税相談等に努めるとともに納税者の実情に合った滞納処分も考慮しながら、積極的に納付の促進を図る。大口の滞納整理については、事務処理等事前に協議調整を行いその執行にあたることとする。困難な事例については、市税徴収専務指導員の指導・助言も仰ぎながら方策等を検討する。」とされている。
(3)茨木市債権管理対策推進本部
ア 設置目的
茨木市債権管理対策推進本部(以下「推進本部」という。)は、市の債権の管理について、未収対策を推進するとともに、徴収業務の改革、改善等のための方策の検討を行い、歳入の確保を図るため、茨木市債権管理対策推進本部設置要綱(以下「要綱」という。)に基づき設置されている(要綱第1)。
イ 所掌事務
推進本部の所掌事務は、債権管理方針の策定に関すること、債権管理方針に基づく債権管理事務の指導に関すること、債権の徴収業務の改革、改善等の検討及び推進に関すること等である(要綱第2)。
ウ 組織
総務部担当副市長の職にある者を本部長に、総務部長の職にある者を副本部長に充てている。(要綱第3第2項)。
エ 検討部会
推進本部には、強制徴収公債権検討部会、非強制徴収公債権検計部会及び私債権検計部会が置かれている(要綱第6第1項)。
なお、収納課長を強制徴収公債権検討部会の部会長に充てている。
オ債権管理方針
推進本部において、毎年度、債権管理方針が決定されている。
平成27年度債権管理方針には、強制徴収公債権について、「滞納整理の原則に基づき、督促・催告を送付しても納付の意思を示さない者に対しては、いたずらに催告を繰り返すのではなく、聴き取り調査・財産調査に基づき、納付能カがありながら納付しない場合には、差押えなどの滞納処分を積極的に進め、健全な滞納整理を行う。」としている。
カ その他
請求の要旨のなかで、「(略)茨木市債権管理対策推進本部の事務を含め、(略)」とあったが、関係職員の陳述によれば、推進本部において、市税の高額滞納者に対する個別の対応については、議題としていないとのことであり、本監査における直接的な関係は見い出せなかった。
(4)収納率
市税収納率の過去5年間の推移は、次表のとおりである。なお、平成27年度市税徴収方針において、目標収納率を現年度分99.00%、滞納繰越分23.00%と設定している。
(単位:%)
現年度分 滞納繰越分 合計
茨木市 大阪府下平均 茨木市 大阪府下平均 茨木市 大阪府下平均
平成22年度 98.68 98.16 25.77 24.29 95.62 93.58
平成23年度 98.91 98.34 28.02 25.07 95.98 93.93
平成24年度 98.92 98.47 22.16 25.59 96.08 94.08
平成25年度 99.03 98.63 22.06 26.91 96.22 94.67
(5)市税高額滞納者
収納課によれば、平成28年2月末日現在における現年度分及び延滞金を除く総額500百円以上の市税滞納者は12人であり(法人を含む。)、それらの滞納額の総額は、約2億6,528百円となっていた。その内訳は、8,000万円台が1人、7,000万円台が1人、3,000万円台が1人、1,000万円台が2人、900万円台が1人、800万円台が1人、700万円台が1人、600万円台が1人、500万円台が3人であった。また、税目別の延べ人数は、固定費産税・都市計画税が10人、個人市民税が7人、法人市民税が1人であり、一部、重複している者がいた。
なお、平成28年3月の茨木市議会定例会総務常任委員会における松本委員の質疑に対する収納課長の答弁では、平成28年1月現在、500万円以上の市税滞納者は29人であったが、これは、集計上、平成26年度分と平成25年度以前分の滞納については、重複してカウントされているものがあるとのことであった。
2 監査委員の判断
滞納整理事務の一部について、法令、市税徴収方針、滞納整理実務マニュアル等に沿って処理がされていなかった事例が見受けられたものの、最終的には、何らかの滞納処分等がなされ、処理が進められていた。
しかしながら、より適正な滞納整理事務とするため、以下の点について、改善を求めるものである。
(1)滞納処理経過表
市長は、市の債権を適正に管理するために、規則で定める事項を記載した台帳を整備するものとする(茨木市債権の管理に関する条例第4条)とし、債権の名称、債務者の氏名及び住所(法人その他の団体にあっては、主たる事務所の所在地及び名称並びに代表者の氏名)、債権の額、債権の発生及び徴収に係る履歴等を台帳に記載する事項としている(茨木市債・権の管理に関する条例施行規則第2条)。
収納課において、主に徴収に係る履歴を記載する台帳として、滞納者ごとに、滞納処理経過表が作成されている。
滞納処理経過表について、一部、記載がない期間があり、滞納整理事務が中断していたのか、記載漏れであったのか等が不明な事例が見受けられた。
また、担当者により、記載内容や表現に差異があったので、記載すべき項目を定め、表現を統一されたい。なお、鉛筆で記載されているものがあったが、消去や改ざんなどのおそれがあるため、鉛筆書きはしないようにされたい。
(2)差押え
納税交渉において予定されていた滞納者の財産処分や金融機関等からの融資がうまくいかず、資金繰りが改善しないため、結果的に納付されなかった事例では、差押えが行われず、再三、同じことが繰り返されていた。
前述の平成27年度債権管理方針では、納付の意思を示さない場合、差押えを行うこととしているが、客観的、具体的な判断基準はなく、担当者によって捉え方が異なる可能性があり、公平性に欠け、また、担当者においても、判断に迷うのではないかと思われる。
この点について、関係職員の陳述では、「滞納者の状況が様々であり、債権管理方針やマニュアルでは、考え方、理念を記載しています。」との回答があつた。個々の諸事情はあるであろうが、公平性の観点、事務の統一性を図るため、差押えを行う場合の客観的な判断基準として、例えば納付計画通りに納付がなかった回数や期間を具体的に設定すること等を検討されたい。
なお、差押え等における関係者の関与の有無について、関係職員の陳述では、「滞納整理事務に影響を及ぼすような関係者の関与はありませんでした。」との回答があった。また、市税の滞納整理事務に従事している職員又は従事していた職員に対する収納課の調査においても、同様の結果であった。しかしながら、滞納処理経過表の記載を見ると、交渉経過の詳細が不明ではあったが、関係者の関与等により、納税交渉が継続され、差押え等が保留されていたのではないかと思われる事例が見受けられた。なお、それらの事例についても、最終的には、何らかの滞納処分等がなされ、処理が進められていた。
(3)分割納付申請
前述の滞納整理実務マニュアル担当者用(基礎編)では、分割納付の期間は、原則として最長1年間としているが、毎年、同様の分割納付申請を繰り返していた事例、数年間の空白期間があった事例、分割納付申請を行ったものの、納付されていなかった事例等が見受げられた。
分割納付の不履行に対しては、監督者が進行管理できる仕組みを作り、滞納者に対して早期の対応を図る体制を整えられたい。
また、分割納付申請書は、5年間経過後に廃棄されていたが、時効管理のため、また、訴訟に備えるため、事案が完結するまでは保存することを検討されたい。
(4)滞納処分の専決
滞納処分を行うことは、課長専決となっている(茨木市事務決裁規程別表第1)。課長専決となったのは、昭和59年4月1日からであり、取扱い件数が著しく増加し、他の債権者との関係で緊急を要することが多くなっていたことから、事務処理の迅速化と効率化を図るため、部長専決から課長専決に改められた。
市税の滞納処分は収納課長専決であるが、市税の滞納処分について、収納課長を超えた上席者との協議等がなされていた事例は、3事案であった。
定例的なものであれば、収納課長専決で足りるであろうが、高額滞納者に係る徴収方針等については、重要案件として、上席者との協議等が行われるよう、検討されたい。
(5)内部統制
現状では、担当者が個々の案件について納税交渉を行い、その経過を滞納処理経過表に手書きで記載している。その結果、担当者が自発的に上席者へ報告、相談しない限り、担当者限りで判断がなされ、情報や進捗状況が共有されていない。
内部統制の観点から、上席者からの定期的なモニタリング等が必要であり、改善を求める。
第5 市長への要望
本市においては、厳しい財政状況が続いており、市の収入の根幹である市税の確保に努めることが求められている。
平成12年4月24日浦和地裁判決では、「市長は、市民税の徴収事務担当職員から、市民税の滞納状況に関する事項についての報告や説明を求め、その原因を分析し、これに対する解決策を検討し、必要な人員を確保するとともに、職員が市民税の徴収を怠ることがないよう指導監督すべき義務を負っていたというべきである。」とされている。市長におかれては、市税の徴収の推進を期待するものであるが、以下の点について、検討されることを要望する。
1 市税の徴収体制の整備等
平成28年3月の茨木市議会定例会総務常任委員会における中村委員の質疑に対する収納課長の答弁では、北摂7市の市税の徴収専務担当者の人類は、豊中市が41人、高槻市が23人、吹田市が19人、箕面市が16人、摂津市が10人、池田市が8人、茨木市が7人であって、平成27年4月1日現在の収納率は、高槻市が97.86%、吹田市が96.71%、茨木市が96.28%、摂津市が96.25%、池田市が94.41%、箕面市が94.28%、豊中市が94.27%とのことである。
茨木市は、市税の徴収事務担当者の人数でみると、北摂7市で一番少ないものの、高い収納率を維持している。しかしながら、ここ数年、滞納繰越分の収納率が低下し、大阪府下の平均を下回っていること、また、市税の高額で長期の滞納者が多数存在する現状から、滞納整理事務を進行管理し、チェック機能を高めるため、一定の人数は必要であると思われるので、徴収体制を整えられたい。
なお、滞納整理事務は、納税交渉の中で、状況によっては、担当者が精神的負担を抱え込むケースがあると考えられるので、公益通報制度を充実するなどの方策も検討されたい。
2 システムの導入
現在、滞納処理経過表は、紙べースの管理となっており、納付状況の確認は、別途、端末処理を行わなければならない。このことは、情報の共有を困難とし、情報の管理や保存上にも問題がある。また、担当者が少ない上に、多数の滞納者を紙べースで管理することが、担当者にとって過重な負担となっているのではないかと推測される。
第4 監査の結果 2 監査委員の判断 において、改善を求めた点については、システム化されていないことに起因しているものがあり、現状、滞納整理事務に支障を来していると言わざるを得ない。効率的、効果的な滞納整理事務となるよう、早急にシステムを導入されたい。